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なぜ海外経験は人を変えるのか——「変容的学習理論」で読み解くルワンダスタディツアーの価値

ルワンダでスタディツアーを運営していて1番楽しいのは、参加者の変化を目の当たりにした時。

誤解や偏見があったと気づいたり、新たな世界を知ったり、参加者自身の意識や行動が変わったり。

たった数日、数週間でも、そう感じられる瞬間は何度もあります。

あくまで感覚的なものかと思っていたのですが、その「変わる」という現象を見事に説明してくれる理論に出会いました。

アメリカの教育学者、ジャック・メジロー(Jack Mezirow)が1978年に提唱した「変容的学習理論(Transformative Learning Theory)」です。

YouTube版はこちら↓

https://youtu.be/P6xrYytNCPs

変容的学習理論とは何か

メジローはこの理論を、次のように定義しています。

Transformative learning is defined as the process by which we transform problematic frames of reference (mindsets, habits of mind, meaning perspectives) – sets of assumption and expectation – to make them more inclusive, discriminating, open, reflective and emotionally able to change.
(Mezirow, 2009)

少し難しい言葉が並んでいますが、かみ砕くとこういうことです。

「変容的学習とは、自分がものごとを見るときのフレームワークを、より良いものに作り変えるプロセスだ」

ここで言う「フレームワーク」のことを、メジローは 「準拠枠(Frame of Reference)」 と呼んでいます。

Frames of reference are the structures of assumptions through which we understand our experiences.
(Mezirow, 1997)

準拠枠とは、私たちが自らの経験を理解するための前提の枠組みである

私たちは誰でも、生まれてから今まで積み上げてきた経験・価値観・常識によって、ものごとを見ています。同じ出来事を見ても、人によって感じ方が違うのは、この準拠枠が人それぞれ異なるからです。

そして変容的学習とは、その準拠枠を「より包括的で(多様性を受け入れられる)、識別力があり(違いがわかる)、開放的で(オープンマインド)、内省的(自分を見つめられる)、かつ感情的に変化を受け入れられるもの」に変えていくプロセスのことです。

変容は10のステップで起きる

メジローは、人が変容する過程を10段階のプロセスとして示しています(Mezirow, 2009)。各段階にルワンダのスタディツアーでの具体例を当てはめてみました。

1. 方向を見失うようなジレンマ(a disorienting dilemma) — キガリの整備された街並みや最新のコンベンションセンターを見て、「アフリカ=貧しい」という自分のイメージが根本から崩れる。

2. 恐怖・怒り・罪悪感・恥を伴う自己省察 — 「自分はなぜこんなに何も知らなかったんだろう」という恥ずかしさや、無知だった自分への苛立ちを感じる。

3. 前提への批判的な検証 — 「自分がアフリカについて持っていたイメージは、どこから来たのか?」と、自分の価値観の出所を問い始める。

4. 不満や変容のプロセスが他者と共通しているという認識 — 夜の振り返りセッションで、同じツアー仲間も同じように揺らいでいることを知り、孤独でないと感じる。

5. 新しい役割・人間関係・行動の選択肢の模索 — 「帰国後に何かできることはないか」「自分のスキルをこういう場所で活かせないか」と考え始める。

6. 行動計画の策定 — 帰国後に関わりたいNGOを調べたり、途上国ビジネスに関わるイベントに参加することを決める。

7. 計画を実行するための知識とスキルの習得 — ルワンダの歴史や開発経済について本を読んだり、関連するオンライン講座を受講する。

8. 新しい役割の暫定的な試み — プロボノとして国際協力に関わる団体の活動に、まず一度だけ参加してみる。

9. 新しい役割や人間関係における能力と自信の構築 — 活動を重ねる中で「自分にもできる」という手応えを積み上げていく。

10. 新たな視点に基づく自身の生活への再統合 — キャリアや生き方の選択に「ルワンダで得た視点」が当たり前のように組み込まれ、日常の一部になる。

こうやって見てみると、ルワンダのスタディツアーでの参加者の変化は、まさにメジローのいう変容の10段階にぴったり当てはまるなあと思います。

すべては「ジレンマ」から始まる

10のステップのうち、最初の一歩が重要です。

「a disorienting dilemma(方向感覚を失わせるジレンマ)」

メジローはこれをこう説明しています。

a disorienting dilemma — an unexpected incident in our lives that, when examined, shows us we aren’t perceiving and understanding reality in accurate ways.
(Mezirow, 1991)

方向感覚を失わせるジレンマとは、人生のなかで予想だにしない出来事であり、よく考えてみると、自分たちが現実を正確に捉え、理解できていないことがわかる

つまり、「あれ?自分の思い込みって、違うかもしれない」と感じる瞬間のことです。

これがあってはじめて、人は自分のフレームワークを疑い始める。自分の価値観を問い直し始める。変容が始まる。

ルワンダはジレンマの宝庫だ

私がルワンダでツアーを運営して8年になります。その中で、参加者が「ジレンマ」に直面する瞬間を何度も目撃してきました。

「アフリカは貧しい」と思っていた人が、キガリの整備された街並みを見て言葉を失う瞬間。

「ジェノサイドの国」というイメージで来た人が、加害者と被害者が同じ地域で暮らしている現実を目の当たりにする瞬間。

「自分とは関係のない世界」と思っていた人が、現地の人と話して、似た悩みを持っていることを知る瞬間。

これらはすべて、「自分が現実を正確に捉えられていなかった」と気づく体験です。メジローが言う「方向感覚を失わせるジレンマ」そのものです。

たとえば参加者の遠藤さんは、こんな感想を書いてくれました。

「アフリカは貧しい」と言われがちで、光の側面もあることはわかっていた。でも、ここまで豊かだとは思わなかった。街中は人と車で溢れ、道路も整備されている。スーパーもある。これを自分の目で見られたことがかけがえない経験だった
(スタディツアーSTART「日々の振り返りシート」より)

ここで終わらず、遠藤さんはさらにこう続けます。

だからこそ、「物質的に豊かでない」側面が際立つのではないかとも感じた。なぜこんなにも格差が生まれてしまうのか。生活すらままならない層もいる。この50年、自分に何ができるのか——この1週間で仮説を立てたい。
(スタディツアーSTART「日々の振り返りシート」より)

「思ってたのと違う」で終わらず、「なぜそうなのか」「自分には何ができるか」という問いへと向かっていく。これがジレンマの先に起きることです。

そしてこのジレンマを経験したとき、人は次の段階へと進み始めます。自己を省察し、前提を疑い、新しい視点を探し始める。10段階のプロセスが動き出す。

旅が終わっても、変容は続く

重要なのは、変容の最終段階が「再統合(reintegration)」であることです。

新しい視点を獲得したまま、日常生活に戻っていく。それがゴールです。ルワンダを去った後も、得た視点は消えません。

コンサルタントとして働いていた参加者の畑さんは、ルワンダで虐殺の生存者から直接話を聞いた後、こんな感想を書いてくれました。

これまでやってきたことと、紛争解決や平和構築の場面で行われていることは、基本的には一緒だと感じた。自分が日頃ずっと問題意識を持っていた「構造的暴力」という概念に、強く興味を持った。
(スタディツアーSTART「日々の振り返りシート」より)

コンサルとして培ってきたスキルが、ルワンダという文脈に置かれたとき、「平和学」という全く別の分野と突然繋がった瞬間でした。帰国後、畑さんはプロボノとしてNGOでの活動を始めます。仕事を辞めたわけではありません。でも、自分のスキルをどこに向けるか、その選択肢が確実に広がった。

これがまさに「再統合」です。あのルワンダでの「ジレンマ」が、変容のスイッチを押したのだと思います。

学術理論が、肌感覚に名前をくれた

私はずっと、「ルワンダでの体験は人を変える」と感じながら、それをうまく説明できずにいました。

「感動した」「視野が広がった」——そういう言葉では足りない気がしていた。

メジローの変容的学習理論は、そこに言葉を与えてくれました。人が変わるのは偶然でも根性でもなく、「ジレンマ→省察→再統合」という学習プロセスの結果なのだと。

スタディツアーの価値とは、単に「珍しい体験をすること」ではありません。それは、自分の準拠枠——ものごとを見るフレームワーク——を更新するための、最良の機会のひとつです。

ルワンダという場所は、その「ジレンマ」を豊かに提供してくれる場所だと、私は確信しています。

竹田憲弘(アフリカノオト代表)

ルワンダ在住10年。スタディツアーSTARTを運営。著書『アフリカに7年住んで学んだ50のこと』。

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参考文献

– Mezirow, J. (1978). Perspective Transformation. *Adult Education*, 28(2), 100–110.

– Mezirow, J. (1991). *Transformative Dimensions of Adult Learning*. Jossey-Bass.

– Mezirow, J. (1997). Transformative Learning: Theory to Practice. *New Directions for Adult and Continuing Education*, 74, 5–12.

– Mezirow, J. (2009). An overview on transformative learning. In K. Illeris (Ed.), *Contemporary Theories of Learning*. Routledge.

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